人工関節置換術の手術は無菌手術室(バイオクリーンルーム)で行われます。
手術はできるだけ他人の血液を輸血しない目的で、自己血輸血を導入しています。
治療・手術に対応した検査が迅速・確実に実施できるスタッフと先端医療設備が完備しています。
退院後、安心して自宅療養してもらうために、MSW(メデカル・ソーシャル・ワーカー)がサポートします。海老名総合病院の豊富な医療セクション(19科)との連繋支援により、患者様はもとよりご家族にも安心していただけるセンターとして、充実した治療にあたります。
2009年12月1日より、入院生活をより快適に過ごしたい方のために、特別仕様個室253号室がオープンし、プライバシーに配慮したラグジュアリーな病室をご用意しております。
当院で行っている人工股関節の手術手技をご紹介します。これは特殊例を除いた、基本的な方法です。
足の長さの確認と手術の体位手術台に仰向けになり、手術しない足と手術する足の長さをチェーンで計測し、これを滅菌して足が同じ長さになるような基準にします。その後、半側臥位という斜めの姿勢で手術台に体を固定します。
太ももの一番外に張り出した大転子と言うところに、約15cmの後方凸の皮切を加えます。筋膜を切開し、中臀筋の一部を切離して関節包に達します。これを切除して、股関節を前方に脱臼させます。頚部より変形した骨頭を切除します。
先ず、骨盤の方に手を加えます。残った関節包を切除し、骨頭がはまっていた寛骨と言うところが十分確認できるようにします。ここに人工股関節の人工臼蓋(カップ、ソケットと言います)を設置するべく、骨を削ります。骨セメントは使用しないため使用するカップのサイズよりやや小さめの穴を空けて、設置角度、固定性を確認しながらカップを固定します。一度カップが固定されると容易には取れなくなります。
次に大腿骨の方に手を加えます。骨頭は切除されていますので髄腔が見えています。骨の中は鶏ガラや豚骨のように骨髄というドロドロしたものが詰まっています。これを人工骨頭の柄の部分(ステムと言います)と似た形に切除し、骨の中にある海綿骨を押し固めていきます。挿入方向や角度を確認しながら、仮のステムを挿入し、仮の人工骨頭をつけて、仮整復します。先に使用したチェーンで足の長さを確認し、股関節の動きを確認します。足が開かない、後ろに反らない、曲がりが悪いなどがあれば筋肉、筋膜を骨より剥離、または腱を切離・延長いたします。脱臼しないことも確認し、本物のステムを打ち込み、人工骨頭を装着します。カップ同様一度ステムを打ち込むと簡単に抜くことはできません。
食塩水で洗浄後、整復し、再度脱臼しないことと足の長さを確認します。更に十分洗浄を行い、切離、切開した組織をもとに戻して縫合します。股関節内に血液が貯まらないようにドレーンチューブを入れておきます。
人工股関節で最も困ることは細菌感染です。感染が骨に及ぶと骨髄炎を起こし、場合によっては人工股関節を抜かないと治療ができないことがあります。対策として当院では無菌室という細菌のいない手術室で手術を行っています。滅菌した術衣を着用し、更に滅菌したヘルメットをかぶっていますので、術者からの感染も防げます。 実際に感染にかかる患者様は術後1〜2年経過して発生することが多く、急に人工股関節周囲が痛くなり、細菌が見つかることがあります。従って手術中に細菌が入り込んだのではなく、別の原因により感染したと考えられます。一般に歯槽膿漏など体のどこかに細菌感染がある場合や扁桃腺炎、気管支炎などで高熱を出した場合、血液中に細菌が検出されることがあり、血液を介して(血行性に)人工股関節周囲に細菌が付着してしまうことがあります。特に歯とは昔から関係があると言われています。歯槽膿漏はかなり悪くならないと症状が出にくいそうなので、定期的に歯医者さんでチェックしてもらう必要があります。 また、人工股関節手術後の感染には、なりやすい人となりにくい人がいます。糖尿病、慢性関節リウマチなどの病気や、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)を内服している場合などです。以前股関節の手術を受けたことのある人や、股関節から膿が出ていたことがある人は、細菌が潜んでいる可能性があり、手術が出来るかどうか十分な検査が必要となります。
当院においては人工股関節後に脱臼することは余りありませんが、稀におこります。それは筋力がなく、筋肉の緊張が少ない人に起こりやすく、術直後に最も多く発生します。手術後約3週間で関節包は再生されてくることと、リハビリで筋力がついてくれば、脱臼の頻度は減ります。脱臼の方向には前方脱臼と後方脱臼があり、頻回に後方脱臼を繰り返す場合、再手術が必要となります。
足を延ばす場合(脚延長)筋肉、腱はある程度延びますが、神経、血管は延びることができません。従って、無理に延長すると神経麻痺や血管損傷を起こすことがあります。出血に対しては細心の注意を払っておりますが、稀に多量の出血をすることもあります。経験的には2cmまでは問題なく、3cm以上の延長で神経麻痺や血管損傷の危険性があります。過度の脚延長により神経麻痺は20-30%発生しておりますが、経過とともに回復いたします。通常の人工股関節の場合、ほとんど問題はありません。
セメントを使用しない人工股関節の場合、手術直後は骨に食い込んでいるだけで固定されておりません。手術後約2ヶ月を経過すると次第に新しい骨が人工股関節の周囲に形成され、徐々に固定されていきます。術後半年でほぼしっかり固定されます。しっかり固定された場合、ゆるむことはほとんどありません。この間に、人工股関節がガタガタして動くと固定されなくなり、ゆるんでしまいます。ゆるみが起こらないようにするには、初期の固定が最も重要となります。一度ゆるむと固定されることはなく、将来ゆるみのために再手術をしなくてはならなくなります。従って手術中は骨折を恐れることなく、強固に固定致します。骨が著しく弱い場合、骨折することもありますが、この場合、骨接合材を用いて、しっかり固定します。当院で使用している機種は、現在までほとんどゆるむことはなく、長期に安定しています。
人工股関節は、股関節が動くたびにこすれあっています。長く使用していると必ずすりへり(磨耗)が生じます。現在、本邦で使用されている人工股関節のほとんどがポリエチレンと金属をこすれあわす組み合わせです。この場合、10年で約2mmポリエチレンがすり減ります。すり減ったポリエチレンのカス(磨耗粉)は骨を溶かす作用があり、20年も経つと人工股関節の周囲の骨が溶け、人工股関節を支えることが出来なくなりゆるんできます。早い場合7,8年でおこることもあります。当院ではすりへりが起こりにくくするため、セラミックとセラミックの組み合わせか、金属と金属を組み合わせる人工股関節を使用しております。従って、磨耗粉による問題は起こりにくいと思われますが、まだ、30年以上経過した患者様がおりませんので残念ながら実証されてはいません。実験上は10年で0.02−0.04mmしかすり減らないようです。金属と金属の組み合わせの欠点としては、金属イオンが出ることです。これが人体にどのような作用があるかまだ分かりません。また、セラミックとセラミックの組み合わせの場合は割れる危険性があります。長期に人工股関節を使用した場合、金属にひびが入り(金属疲労)、折損・破損することもあります。20年前の人工股関節と違い、品質はかなり良くなっていることと100kgを越える体重の患者様は日本人にはほとんどいませんのであまり問題にはならないと思います。
下肢の骨を扱う場合、静脈の中で血液が固まり(血栓)、静脈がつまることがあります。足の深いところで起こること深部静脈血栓といい、足がむくみます。この血栓が肺に飛んでいってしまうと肺塞栓・肺梗塞となり、酸素が体に取り込めなくなります。欧米では以前より問題となっていましたが、幸い日本人には少なく、あまり問題にはなっていませんでした。しかし、食生活の変化とともに次第に増加しているようです。血栓症の既往のある方(脳血栓、肺梗塞)や、血栓が出来やすい体質の方(下肢静脈瘤、心雑音、心弁膜症、不整脈、肥満、糖尿病、高脂血症等)は特に注意が必要です。当然予防が第一です。足首を動かすことで血液は流れます。術後は足首をよく動かしてください。当院では強制的に血液を流す器械を術中から手術しない足に着け、術後は両足に着けて予防をしています。また、血栓予防のための弾性ストッキングを使用しております。また、血液が固まりにくくなるように小児用アスピリンを術後3週間内服してもらい、更に血栓形成予防を行っています。
手術を行うためには麻酔をかけなければなりません。色々な薬を使用するため薬のアレルギーが生じることが稀にあります。また、術中何か問題が起こっても患者様は寝ていますから症状を訴えることが当然できません。術中全身管理が必要となりますが、当院では専門の麻酔科医が行っております。術前回診がありますので、分からないことはお聞きになってください。
なお、人工膝関節については、担当医にお聞き下さい。
小侵襲手術は最近本邦においても多くの施設で行われるようになってきました。しかし、安全、確実に手術を行うことを第一と考え、当センターでは小侵襲手術は行っておりません。
以上、簡単に手術について説明いたしましたが、お解りにならないことがあれば、担当医にお聞き下さい。
入院費用については担当の事務にご相談下さい。なお、高額療養費給付制度、高額療養費貸付制度、自立支援医療等の公費による支援制度があります。各市町村の福祉課にもご相談下さい。
術後当日は麻酔の関係で食事をとることは出来ませんが、十分麻酔がさめたと判断できれば飲水は可能となります。翌日は、状態が良ければベッドの端に座ることが出来ます。車椅子移動が可能であれば、トイレに行くことが出来ます。術後3日で股関節に入っているチューブが取れれば歩行訓練を開始します。また、創部の消毒は当センターでは通常行っておりません。術後約10日前後でキズを被っているガーゼを剥がすだけで、抜糸は行いません。当センターでは、皮膚の縫合は通常行っておりませんので、抜糸の痛みはありません。創部が閉鎖されたらシャワーや入浴が可能となります。術後2-3週で外出、外泊が可能となります。術後3-4週で退院が可能となります。
本邦の変形性股関節症の患者さんは両側悪くなっている方が多く見られます。2001年より適応があれば、両側同日手術を行っており、既に100例を越えております。出血が多くなり、リハビリ開始が大変になる等の問題がありますが、治療期間が短く、費用も約半分で済みます。さらに、股関節の可動域も別々に行うより良くなることが多く、当センターでは積極的に同日手術を行っております。入院期間は通常片側の方と同じです。
--- 以下の文章はのぞみ会に寄稿した原稿を抜粋したものです。---
人工股関節置換術は、今まで60歳以上の方にしか適応はないと言われておりました。
その理由は、人工股関節の“ゆるみ”や“すり減り”が、約20年以内に起こるためということからでした。現在、女性の平均寿命は85歳で、そのうち90歳に達するのではないかと思います。60歳で人工股関節置換術を行っても、20年しか持たない人工股関節を入れた場合、80歳で再置換術をしなければならないと言うことになります。先ず、“ゆるみ”については、骨セメントを使用しない人工股関節が、約20年間良好に経過している事実から、すでに解決されていると考えております。当センターでは開設以来、骨セメントを使用しない人工股関節を使用しております。また、“すり減り”については、残念ながらまだ解決されておりません。従来のポリエチレン製のカップと、金属の骨頭をすり合わせるものは、長期に持たないことが解っております。当センターではカップと骨頭がアルミナセラミックス製、または、コバルトクロム合金製の人工股関節を使用しております。どちらも“すり減り”にくい人工股関節であり、長期成績が期待されます。しかし、まだコバルトクロム合金製の最長経過例が10年、セラミックス製が7年です。これらの新しい人工股関節が、いったい何年持つかは解りませんが、30年以上機能し続ける可能性は充分あります。これらの人工股関節を行った100人の患者さんが、30年後にどうなっているかを考えてみます。90人以上の方は、問題なく経過されると思います。しかし5−10人の方は、セラミックスやコバルトクロム合金であっても“すり減り”を起こしてしまう方、人工股関節がこわれてしまう方、細菌感染を起こしてしまう方がいらっしゃると思います。耐久性のある人工股関節を適切に設置することが最も大事なことであります。最近、小さなキズで手術をすることをうたっている病院がありますが、二の次、三の次のことだと考えております。
股関節がかたく、筋力低下がひどくなってから手術を受けた方は、それなりにしか回復しません。また、高齢になればリハビリにも限界があります。あまり悪くなる前に手術をされた方が良いと思います。また、悪い股関節をかばうために、反対側の股関節や膝関節の変形を起こしている方が多く見られます。他の正常な関節を悪くする前に手術を受けた方がよいと思います。
--- 以下の文章は「今日の治療指針2007年度版」に書いた原稿の抜粋です。---
変形性股関節症Osteoarthritis of the Hip
近藤宰司 海老名総合病院併設人工関節・リウマチセンター部長
変形性股関節症とは股関節の骨頭軟骨、および臼蓋軟骨に変性が生じ、次第に軟骨が剥離・消失してしまう疾患である。剥離した軟骨は、滑膜炎を引き起こし、更に軟骨の変性を進行させる。軟骨が消失して行くにつれ、骨頭や寛骨臼に骨硬化、骨嚢胞、骨棘が形成され、著しい股関節の拘縮を来す。原因不明のものを一次性、何らかの原因があるものを二次性に分類する。欧米においては、一次性が多く、本邦においては臼蓋形成不全による亜脱臼性の二次性股関節症(95%)が多い。本邦における二次性股関節症は両側例が約半数見られ、女性が90−95%を占める。多くは先天性股関節脱臼の治療の失敗に続発して見られる。しかし、先天性股関節脱臼がなく、臼蓋の発育不良により股関節が亜脱臼を呈し、その結果、40−50歳代に徐々に変形を生じるものも数多く見られる。その他、二次性股関節症には、外傷(頸部骨折、股関節脱臼)後、感染性の股関節炎後、大腿骨頭辷り症後、ペルテス病後、関節リウマチ、大腿骨頭壊死、代謝性疾患などに続発するものもある。
症状は股関節痛、跛行、可動域制限、脚短縮等である。疼痛は当初、動作開始時や長距離歩行後のことが多いが、次第に階段昇降時、荷重時、安静時、就寝中の寝返り動作時にも起こる。その原因は、滑膜炎、股関節周囲の筋腱炎、股関節唇障害、軟骨下骨損傷等である。
診断は臨床症状とX線写真で行う。但し、股関節痛がなく、腰痛、臀部痛、大腿部痛、膝関節痛を訴えることがあり、注意を要する。また、関節リウマチ、大腿骨頭壊死、急速破壊型股関節症と鑑別しがたい症例も見られる。
最も多い亜脱臼性の二次性股関節症について述べる。X線写真により病期を前股関節症(関節症変化がない)、初期(僅かな関節裂隙の狭小化)、進行期(明らかな関節裂隙の狭小化)、末期(関節裂隙の消失)に分け、年齢を考慮して方針を決定する。病状の進行は通常、緩徐であるが、病期の進展する時期に急速に進むことがある。その時期には強い疼痛を伴うが、進展が治まると全く疼痛が消失することがある。進行期・末期であっても、直ちに外科的な治療をしなくても良い。X線写真の変形に捕らわれがちになるが、患者の愁訴を良く聞いて、適切な治療を行うべきである。股関節痛が患者自身でコントロールできるようであれば保存的な治療を行い、3ヶ月程度の保存療法が無効である場合、外科的な治療を考える。
疼痛が強い場合、安静(痛い動作をさせない)、免荷(杖歩行)、鎮痛剤の使用で経過を見る。鎮痛剤の副作用に十分注意する。効果のない場合、関節内注入を行う。この際、貯留した関節液が吸引できることがある。関節内注入には厳重な消毒操作を行う。疼痛が弱まったら、病期の如何に関わらず、積極的に股関節周囲筋の筋力強化を行う。疼痛の原因が筋力低下によることも多い。足底板、補高装具、股関節の牽引治療が効果的なこともある。
病期と年齢により手術方法が異なる。骨切り術(骨盤骨切り術、寛骨臼回転骨切り術、大腿骨外反および内反骨切り術、これらの併用)と人工股関節置換術がある。最近、股関節鏡による鏡視下手術も行われている。一般に、60歳未満の症例に対しては、骨切り術が第1選択となる。治療が長期におよび、成績が一定していないため慎重に行うべきである。また、骨切り術では脚長差の補正や可動域の改善は期待できない。60歳を越える症例に対しては人工股関節置換術が第1選択となる。治療期間も短く、除痛効果の優れた安定した手術であり、長期成績も期待できる。悲惨な合併症に、細菌感染症(1%)がある。多くは人工股関節を抜去しなければ感染の沈静化は見られない。術前に細菌感染症、特に歯科領域のものは必ず治療させる。感染が沈静化すれば再度人工股関節置換術を行うことは可能である。その他、術後脱臼、神経麻痺、人工関節のゆるみ・破損・摩耗、血栓症、深部静脈炎、肺梗塞などの合併症があげられる。